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July 24, 2004

胃じゃなくて大腸用なんですが、ま、いいか《ずさんさ9》

2年目勤務医のWさんは、医者イコール金持ちという世間の期待を裏切るわけにいかないので、場末の病院で内視鏡検査がメインのアルバイトを週1回ペースですることになった。肩が凝るが、割りの良いバイトである。胃カメラなら、この2年間でかなり経験を積んでいる。

アルバイト先の病院は、勤務先の大病院とは違い、何もかもこじんまりしている。入院施設は全100床ほど。その半分が療養型。入院患者のほとんどは老人なのだ。

胃カメラ検査アルバイト初日、W医師は連日の睡眠不足がたたって、頭がぼーっとしていた。最初の患者を検査室に迎え入れ、胃カメラをモニターシステムに接続し、検査を開始したのだが、なんだかファイバースコープが細いような気がした。患者の食道に挿入したのだが、いつもよりスムーズに入る。なんか変だぞ。

すると、検査室の隅で器具を消毒していたナースがそそくさとやって来てW医師の背中をこづく。黙ったまま、メモ書きをこっそり彼に見せた。「それは大腸用です」と書かれていた。

げ。W医師は、うろたえた。まさか肛門から挿入される器具(というか、既に何度も肛門から挿入された器具)をあなたのお口から食道を通過して胃まで入れてしまいましたとは言えないぞ。しかし、どんなことがあっても平静を装うのはわりと得意な方だ。

患者に向かってにこやかに話しかけ、「このファイバースコープは患者さんの胃の容積にマッチしていないので、別のと取り替えますね」とでまかせを言った。ボケが出始めたご老人には、どうせわかりゃしないだろうと心の中の悪魔が囁いていた。

年老いた患者は、「うぐ。うぐ。おえ。おえ」と苦しげに了承とも不服とも取れない声を出した。ファイバーを食道から胃に通されているから、そんな声しか出せないのだ。

初日からえらいミスをしてしまった。W医師は、あのナースに口止めしておかないと、せっかくの高収入アルバイトがふいになってしまうかもしれないし、この病院の院長に大目玉を食らうのは必至だと焦燥に駆られた。何かおごってやればいいのだろうか。しかし下心があると思われるのも嫌だし。

ファイバースコープを消毒その日のアルバイトが終わったころ、例のナースがW医師に声を掛けてきた。「先生、気にしなくて大丈夫。うちの病院の場合は、どっちのファイバースコープも同じ消毒液に浸す方式になっていますから」

大病院勤務のW医師は耳を疑った。ナースが続ける。「大丈夫ですってば。今までこのやり方で問題なんて起きてないし、患者さんの家族も患者を収容してくれる病院がほかになかなか見つからないから多少のことでは文句言わないんですよ。先生は大病院でお勤めだから、ちょっとびっくりなさるかもしれないけど」

なんともずさんな話である。この話の4分の1くらいは独自に取材した実話なのだ。日本の医療の暗部である。ずさんさ評点は、ほぼ満点の9ポイントを与えたい。

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2004 07 24 | 固定リンク

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コメント

��( ̄[] ̄;)!

実話.................

投稿者: Liz (Jul 24, 2004 1:26:01 AM)

Lizさん

お久しぶりです。実話の部分はあくまで4分の1程度ということで。

どの部分が実話かを言うのはあえて差し控えておきますが(笑)。

というか本当は、9割方実話かもしれません。だけど、お医者さんからあまりにマジな突っ込みが入ると対処しにくいので4分の1ということにしておきましょう。

投稿者: miccckey (Jul 24, 2004 1:35:23 AM)

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