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July 14, 2004

助かる望みのない「救急牛車」搬送《はがゆさ10》

harareジンバブウェという国をご存知だろうか。南アフリカ共和国の北側に位置する国だ。南アフリカ共和国と同じく、かつては白人政権の国だった。1980年に人種差別政策から脱却し、現在のジンバブウェ共和国になった。

筆者は、南アフリカで暮らしていたころ、南アのヨハネスブルグからジンバブウェの首都ハラーレまで1200 kmにも及ぶ陸路を自動車で何度も往復した。2、3日はかかったのではないかと思うかもしれないが、1日で1200 kmを移動するのである。時速200km巡航が可能なドイツ車ならまだよかったが、筆者一人で小型トラックを運転してその距離を移動しなければならないときは最悪だった。時速100kmで12時間も走り続けなければならなかったのだから。休憩なんてほとんどしている余裕もなかった。

当時のジンバブウェは、それほど貧しい国のようには思えなかった。首都ハラーレ(上の写真)も比較的きれいで、生き生きして見えたし、何より南アに比べてはるかに治安が良かった。

ところが、最近は外貨危機に瀕し、公共機関が相次いで機能を停止しており、惨憺たる状況に陥っているようだ。IOL - Africaカテゴリの記事「We are being dragged back to the stone age (written by Basildon Peta on July 13 2004 at 02:29AM)」によると、ジンバブウェ国有鉄道は財政難のため、電車やディーゼル機関車の運行を停止し、長年車庫に放置されていた蒸気機関車を代わりに走らせているという。

牛車それだけではない。救急車さえも維持・運用が不能になっている。苦肉の策として、自動車ではなく牛車を救急車代わりに使い始めているそうだ。馬車ならまだしも、牛車である。馬車なら時速30〜40キロくらいで走れるかもしれないが、牛車だと人が歩くに等しいのではないか。「牛歩」というくらいである。

医療機関も困窮している。病院にある医薬品といえば鎮痛剤くらいのものだという。耳を疑いたくなる。筆者はハラーレで歯の治療を受けたことがあるが、日本と比べても遜色のない現代的な設備が揃っていたのを覚えている。

この記事には、ジンバブウェ厚生省の役人の生々しい証言が引用されている。

"Maybe these ox-drawn carts will help in reducing people dying in homes."

"They will either die on their way to the hospital or on arrival. That will save the families of the hassle of transporting dead bodies to mortuaries."

「救急牛車」には、家で死ぬ患者が減る程度の効果くらいなら期待できるかもしれない。だが患者は、病院に着くまでに死ぬか、病院で死ぬかのどちらかだ。家族が遺体を運ぶ労力が軽減されるに過ぎない。

ジンバブウェという国の比較的豊かだった時代を少しだけ知っている筆者にしても、この記事の表題にある「back to the stone age」という表現が決して大げさでないことがよくわかる。ましてや、現地の人たちにとっては、まさに石器時代に逆戻りしてしまったという絶望的な思いがしているに違いない。

昔は十分な医療体制が整っていたにもかかわらず、今では迅速に治療を受ければ助かるような怪我や急病でも死んでしまう可能性がきわめて高いという状況に陥っているのである。ここまで「はがゆい」ことはないだろう。このはがゆさ、当然のことながら満点の10ポイントである。


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2004 07 14 | 固定リンク

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